ろいろの言葉にしてあなたの耳から吹き込んでやった。そのせいか、あなたはだんだん元気になり、恋愛から結婚へ――とうとう一人前の女になった。
あなたは一人前の女になった。私は同じ女性として助力の義務を尽した。もうそれで好い、それ以上私はあなたに望まれ度くない。
あなたは私が都に一人ぽっち残ってさぞ寂しかろうと同情する。よしてお呉れ、私は人から同情を寄せられるのは嫌いだ。寂しいことの好きなのは私の性分だ。けれども断って置きますが、私の好きなのは豪華な寂しさだ。
私は好んで私を愛する環境から離れて居たがる。一人、私は自分の体を抱く、張り切る力で仕事のことを考える。自分の価値につくづくうたれる。だがこれは病理学でいう「自己陶酔症《ナルチスムス》」などいう病的なものではないよ。自分の生命力を現実的にはっきり意識しながら好んで自分を孤独に置く――この孤独は豪華なぜいたく[#「ぜいたく」に傍点]なものなのだよ。もう判ったか、ゆき子。判ったらもう私をなつかしがる手紙など書くな、お前の良人《おっと》に没頭するのだ。
底本:「岡本かの子全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年2月
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