りません。また、わたしのドレス一枚買はう為めでもありませんよ。
当てゝ御覧なさい。当りませんか。
やつぱり太郎に就いてですよ。ですが、年頃の男の子にあまりお金をやつてはよくありません。わたしは貯めて置くのですよ。お金は麻のハンカチへ一包、二包。それから古い革手袋や、昔はやつたお高祖づきんの布つ片にしつかりくゝつて。そして、決して決して太郎には見せません。
わたしは遣るのです。そのお金でいまに太郎の美くしいお嫁に着物を買つてやるのです…………太郎はどこからかきつと美くしいお嫁さんを連れて来ませう…………そのお嫁さんは、ひよつとするときつい意地悪るかもしれません。
それでもわたしはきれいな着物を買つてやります。太郎は美くしい着物を着たお嫁さんをまた一だんと好みませうから。お嫁さんが、わたしをいぢめるお嫁さんでもおかまひなし、わたしは太郎のよろこびのために、そのお嫁さんに美くしい着物を買つてやります。
ですから、わたしは今日からお金を貯めなければなりません。
わたしの下手な詩でも買つて下さい。わたしが香の好い煙草一箱恋人に買はうとでもすることですか、またドレス一枚わたしの為に買はふとするのでもありませんよ。
みんな太郎の為に…………太郎の美くしいお嫁さんに着物を買ふため麻のハンカチ古い革手袋、昔はやつたお高祖づきんの布つ片へ、そつと貯めて置かうとするお金なんです。
底本:「日本の名随筆42 母」作品社
1986(昭和61)年4月25日第1刷発行
1988(昭和63)年1月20日第5刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第一三巻」冬樹社
1976(昭和51)年11月
入力:もりみつじゅんじ
校正:菅野朋子
2000年6月1日公開
2005年6月25日修正
青空文庫作成ファイル:
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