受け付けそうもない素質的のものであるかを根本に感じ、今更ながら現実肯定の仏教が、その思想が高遠であるだけそれだけ西洋人の宗教概念とは相容れず、うっかりすれば単なる厭世教に取られそうな気配いさえ見ゆるのに危険を覚えて慎しみを持つようになって居た。西洋人に大乗教理を説くのは余程の基礎知識の準備を与えて、さてそれから後のことだと思ったのであった。
もう一つは私は教役者ではない。私は仏教の鳥だ。うたうのだ。ただそれだけでいい。若《も》し万一、私の如き者が仏教を筋道立てて講ずるのを必要とする場合が来たら、私は先《ま》ずわが同胞に説こう。それが私に許されねばならぬ唯一の好みだ。それから先は兎にも角にもである。
それや、これやがあるので私は、挟み込めない私の言葉をそのまま無駄にして、終いには寧《むし》ろ青年が快く話し得られるように仕向ける態度を取った。青年は心置きなく語ったようだ。停車場には伯林行きの汽車が着く頃になったと見え、ちらほら乗客の姿が入口に溜って見えた。青年は勘定書を持って来るとき急いで言った。
「ただ一つ伺い度いのは愛の問題です。疲れた者にも愛だけは断ち切れません。寧ろ精神肉体の中
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