来ない。骨董的《こっとうてき》価格を減損するというものだ。自然保険料を値上げしなければならない」
と彼女の夫に忠告したからである。
この邸には十七万|磅《ポンド》ほどの保険がつけてある。
彼女の夫は保守党《コンサヴァチーブ》の上院議員だが政治には全く興味を持た無い。それよりも彼の家門の名望をできるだけ享楽する事に生き甲斐を感じて居る。英国や、欧洲大陸や、亜米利加《アメリカ》では、まだスコットランドの領主《ランドロード》という封建時代の鎧兜《よろいかぶと》を珍重する。一体人間は仮装会を好むものらしい。といってスコットランドの領主などという数代の手数のかかった鎧兜を今なお真面目顔で着て居られる人間も滅多に無いので、彼は世界到るところでもてる[#「もてる」に傍点]場所を見付けるのに骨が折れぬ。だが贈られたものには自然返礼が必要となり、各地で接待して呉れた人達を彼は英国で接待し返さなくてはならない。
その上彼は、
「わしの城《キャッスル》にもぜひ来て見なさい。いろいろ面白い事がありますわい」
などと愛想の好い言葉を容易に振り出すのだ。
「城」という言葉に魅着して本気で訪ねて来る連中が
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