まった。
――ねえパパ、こんな処《ところ》へ朝っから来て、こんなこと言ったりしてることも私の抒情《じょじょう》的世界ってことになるんでしょうね。
――ああ、当分、君の抒情的世界の探索《たんさく》で賑《にぎや》かなことだろうよ。
逸作は、息子の手紙を畳《たた》んだりほぐしたりしながら比較的実際的な眼付きを足下《あしもと》の一処《ひとところ》へ寄せて居た。逸作は息子に次に送る可《か》なりの費用の胸算用《むなざんよう》をして居るのであろう。逸作の手の端《はし》ではじけている息子の手紙のドームという仏蘭西《フランス》文字の刷《す》ってあるレターペーパーをかの女はちらと眼にすると、それがモンパルナッスの大きなキャフェで、其処《そこ》に息子と仲好《なかよ》しの女達も沢山《たくさん》居て、かの女もその女達が可愛《かわい》くて暇《ひま》さえあれば出掛《でか》けて行って紙つぶてを投げ合って遊んだことを懐しく想い出した。
逸作が暫《しばら》く取り合わないので、かの女も自然自分自身の思考に這入《はい》って行った。
暫くしてかの女が、空に浮く白雲《しらくも》の一群に眼をあげた時に、かの女は涙ぐんで居
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