病むだらう、
今迄よりもつと高熱が出るかも知れない。
おれは今迄冷たい空を歩いた、
おれは太陽の光を反射したばかりであつた、
だが自分の光を出さずにゐられなくなつた、
ああおれのまはりは何て寒いのだらう。
泣けよ
自分は君が泣くことを許す、
自分は君が泣くことを許す、
ああ泣けよ泣けよ、
汝の魂はその涙に洗はれん、
汝の心はそのために、
暗底《やみぞこ》の星の如く雨にぬるゝとも、
しめるとも、
更にそれによりて光をまさん。
ああ泣けよ、
泣けよ、
汝の心の底より汲み出して、
涙なきまでなけよ。
汝の涙はかわくことなし、
汝の涙は海より出づ、
汝の涙は雨後のすきとほれる海より出づ。
ああ泣けよ泣けよ、
汝の自然のために泣けよ、
われは泣くべきものに泣かざる人を愛せず、
嵐のあとのきよき野の如き顏せざる人を愛せず、
ああ泣けよ泣けよ。
誰が知つてる
汝《おまへ》は愚鈍な木である。
葉はしげり、
梢はのび、
春が來れば、
花が咲き、
鳥も來て鳴く。
だが汝《おまへ》は愚鈍な木だ。
いくら花が咲いても、
鳥が來て鳴いても、
葉が茂つても、
梢が延びても、
汝《おまへ》は愚鈍な木に違ひない。
だがこの木が、
あの底光りする天上の一つ星を見てゐるとは、
誰れが知らう。
あの凄い底びかりする星を見てゐるとは、
誰れが知らう。
曲つた木
或る木は若木《わかぎ》のとき痺《しび》れ藥《ぐすり》をのまされた。
彼れは一生花も咲くことなくひよろりと大きく伸び育つた。
そこで通りかゝりの人間は變つた木だと、
その高い梢をながめた。
ところが不思議なことから、
梢に一つ花が咲いた。
ほんの小さい形ばかりの花だ、
そこで奇蹟が始つた。
彼れは舊來の毒血《どくち》に謀反をおこした、
そして身をもがき出した。
彼れには今二つのどちかが必要だ、
この過去の怨靈《をんりやう》を嘔吐《おうと》するか、
またはこの痺《しび》れ藥《ぐすり》以上の毒消し藥を飮むか……
だがさうしてる内に冬がやつて來た、
そして雪が降つた、
どんどん降つた、
眼もあけられない位降り込めた、
一と月も二た月も……
彼れは舊來の毒のきゝめで方々の節々《ふしぶし》が凍るやうな痛さを感じた。
何だか膸のあたりが筋《すぢ》をひいて痛み出した。
しかし心では重々しく思つた、
――ああ盛なる自然
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