を深く汲み分けられるのだ
ああ君の手を握るべき吾れよ
君の心をやがて捕ふべき吾れよ
願はくは君の手さきのみで
君全身の魂を掴《つか》め
願はくは君の最奧の心の底に入れ
斯うして微笑するのだ
どれくらゐ深いかわからない微笑
自分は斯くして君の萬事に入り
君の一とつぶ種の靈魂にふれて
わが身を君の一體にするのだ
わがなす生命の種《たね》の力は
はにかんでゐる君の美しい肉體に種まかれるので
初めて香《にほひ》あり音あり色ある
高いリズムある花が生れるのだ
ああはにかめ
はにかめ
この燃えてゐる私の愛の火から遠《とほざ》かれ
その高い煤《すす》まじりの焔《ほのほ》をもつと嫌《いや》がれ怖《こは》いと思へ
私は君が無心な心に立ちかへつて睡つてゐるとき
君をもつとも自然に
みぢんも危ぶなげもなく
吾が手のなかの寶玉として見せる
その運命を吾が眼の前につくつて見せる
それまで君を人のものにして預けて置く
君を今の人に預けて置く
それまでも感ずる自分の心は
君の内をひらかぬことはない
いつかはその底を掴んで吾がものとするだらう
自分の心ではさう思ひながら
だんだん自分は肥つてゆくのだ
先きから先きへとのびて行くのだ
根強く人間の魂を感じながら
男の仕事をやつて行くのだ
ああ LOVE よ ――八月九日
ああ Love《ラブ》 よ
君よ
君は僕をひきしめる
かなり苦しい箍《たが》だ
苦しいたがだ
君は今人の所にゐる
みもちにまでなつてゐる
それでも自分は
君を思ふことはやまない
君は僕が戀してる事は知つてるだらう
けれどもこれ位苦しんでゐることは知るまい
この心持は解るまい
月日もたつから消えてることと思つてるだらうが
自分の Love はちつとも消えない
そして何もない空中をひた走りに走るのだ
意志はそれだけ苦しいのだ
そして手をさしのべてゐるのだ
さしのべて日中の星を掴まうとしてゐるのだ
ああその星はどこに輝いてゐる
見えるは一面に白い空ばかりだ
まつぴるまの空だ
君の影はどこにもない
このぼんやりしたものの中に
身體《からだ》を投げ出しながら
自分はどんどん産むだけのものを産んで行く
産んで産んで産み飛ばすのだ
君よ
君は一時人のものになつて居れ
自分は一時その運命を悲しむが
すこしもまゐらない
自分は出すだけのものを出して行く内に
いつか君をつかまへてやる
自分
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