ぎ合って入日の方に向いて行くのが、暗い形に見えるのだ。多くは自分の輪廓《りんかく》に圧《お》されているように背中を曲げている。その事を話すとお嬢さんが云ったっけ、地平線に行って山にでもなってしまいそうな風に歩いて行くのでしょうねと云ったっけ。実によく呑込《のみこ》めたものだ。己の思っている人物は地平線の方に行って山になってしまいそうな形《かたち》に相違ない。(間。)それから、も一つこんな絵の事を話したっけ。画題は基督《キリスト》というのだ。己がその事を言い出すと、半分いわせずにお嬢さんがそういったっけ。人物ではないでしょう。風景でしょう。期待が当来を知らせるのでしょうと、そういったっけ。おい。マッシャ。かけるような気分に早くなって見たいなあ。(両手を拡げて未来を掻《か》き抱《いだ》く如き振《ふり》をなす。)
モデル。そうですね。実行が一番難しいのですね。
画家。そうだて。やる時は暴力でやるのだ。その日の朝だって、あたりまえの朝と変った事はないのだ。詩人なら机に向く。画かきなら画架に向く。そして出し抜けに未曾有《みぞうう》の事を決行するのだ。一体は沈黙の内でなくては思量せられないはずの事
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