。いえ。ただお暇乞《いとまごい》を致そうと存じまして。
画家。(少し腰を上げ、半ば向き返る。)好い好い。また来て貰おう。
姉。さようなら。
モデル。さようなら。御ゆっくりと。(退場。)
姉。あれが名高いマッシャなのね。
画家。(何か物を案じいて、気のなき返事をなす。)ええ。あれがマッシャです。
姉。去年の十一月に、あの大きい画をかいている頃、わたしに、色々話してお聞かせだったのね。
画家。(突然立ち上る。)姉さん。ちょっと御免なさいよ。
姉。ええ。
画家。(忙がわし気に戸口に行《ゆ》き、戸を開け、外に向きて呼ぶ。)おい。マッシャ。(間。梯子《はしご》を下《お》り行《ゆ》く足音留る。)マッシャ。
モデル。(梯子の下より。)ええ。只今《ただいま》。(急ぎ足にて梯子を登る音す。さて、戸の外まで帰り来たる様子なり。)
画家。さっきの事はなあ、己は何んとも思ってはいないよ。いいかい。
モデル。(梯子を駈け登りしため、息を切らしいる様子。)本当にあんまり出し抜けだもんですから、吃驚《びっくり》しましたのと、それにわたしは恥《はず》かしくって。
画家。なに。恥かしかったのだと。何んだ。馬鹿《ばか》ら
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