]の垣の蔭に笹鳴《ささな》きの鶯《うぐいす》が見え隠れするのが見えた。
ジュッ、ジュッ、堯は鎌首をもたげて、口でその啼き声を模《ま》ねながら、小鳥の様子を見ていた。――彼は自家《うち》でカナリヤを飼っていたことがある。
美しい午前の日光が葉をこぼれている。笹鳴きは口の音に迷わされてはいるが、そんな場合のカナリヤなどのように、機微な感情は現わさなかった。食欲に肥えふとって、なにか堅いチョッキでも着たような恰好をしている。――堯が模《ま》ねをやめると、愛想もなく、下枝の間を渡りながら行ってしまった。
低地を距《へだ》てて、谷に臨んだ日当りのいいある華族の庭が見えた。黄に枯れた朝鮮芝に赤い蒲団が干してある。――堯はいつになく早起きをした午前にうっとりとした。
しばらくして彼は、葉が褐色に枯れ落ちている屋根に、つるもどき[#「つるもどき」に傍点]の赤い実がつややかに露《あら》われているのを見ながら、家の門を出た。
風もない青空に、黄に化《な》りきった公孫樹《いちょう》は、静かに影を畳んで休ろうていた。白い化粧煉瓦を張った長い塀が、いかにも澄んだ冬の空気を映していた。その下を孫を負《お
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