うありませんでした。私はその衣《きぬ》ずれのようなまた小人国の汽車のような可愛いリズムに聴き入りました。それにも倦《あ》くと今度はその音をなにかの言葉で真似て見たい欲望を起したのです。ほととぎすの声をてっぺんかけたか[#「てっぺんかけたか」に傍点]と聞くように。――然し私はとうとう発見出来ませんでした。サ行の音が多いにちがいないと思ったりする、その成心に妨げられたのです。然し私は小さいきれぎれの言葉を聴きました。そしてそれの暗示する言語が東京のそれでもなく、どこのそれでもなく、故郷の然も私の家族固有なアクセントであることを知りました。――おそらく私は一生懸命になっていたのでしょう。そうした心の純粋さがとうとう私をしてお里を出さしめたのだろうと思います。心から遠退《とおの》いていた故郷と、然も思いもかけなかったそんな深夜、ひたひたと膝《ひざ》をつきあわせた感じでした。私はなにの本当なのかはわかりませんでしたが、なにか本当のものをその中に感じました。私はいささか亢奮《こうふん》をしていたのです。
然しそれが芸術に於てのほんとう、殊に詩に於てのほんとうを暗示していはしないかなどOには話しま
前へ
次へ
全24ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
梶井 基次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング