たいなあ」と云わされました。変な云い方ですがこのなあ[#「なあ」に傍点]のあ[#「あ」に傍点]はOの「すべり台面白いぞお[#「お」に傍点]」のお[#「お」に傍点]と釣合っています。そしてそんな釣合いはOという人間の魅力からやって来ます。Oは嘘の云えない素直な男で彼の云うことはこちらも素直に信じられます。そのことはあまり素直ではない私にとって少くとも嬉しいことです。
 そして話はその娯楽場の驢馬《ろば》の話になりました。それは子供を乗せて柵《さく》を回る驢馬で、よく馴れていて、子供が乗るとひとりで一周して帰って来るのだといいます。私はその動物を可愛いものに思いました。
 ところがそのなかの一匹が途中で立留ったと云います。Oは見ていたのだそうです。するとその立留った奴はそのまま小便をはじめたのだそうです。乗っていた子供――女の児だったそうですが――はもじもじし出し顔が段々赤くなって来てしまいには泣きそうになったと云います。――私達は大いに笑いました。私の眼の前にはその光景がありありと浮びました。人のいい驢馬の稚気に富んだ尾籠《びろう》、そしてその尾籠の犠牲になった子供の可愛い困惑。それはほ
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