しらず》の間にすっかり自分の気持が便《たよ》りない変な気持になってしまっているのを感じた。吉田は自分が明るい病室のなかにい、そこには自分の母親もいながら、何故か自分だけが深いところへ落ち込んでしまって、そこへは出て行かれないような気持になってしまった。
「やはりびっくりしました」
それからしばらく経って吉田はやっと母親にそう言ったのであるが母親は、
「そうやろがな」
かえって吉田にそれを納得さすような口調でそう言ったなり、別に自分がそれを、言ったことについては何も感じないらしく、またいろいろその娘の話をしながら最後に、
「あの娘はやっぱりあのお婆さんが生きていてやらんことには、――あのお婆さんが死んでからまだ二た月にもならんでなあ」と嘆じて見せるのだった。
三
吉田はその娘の話からいろいろなことを思い出していた。第一に吉田が気付くのは吉田がその町からこちらの田舎へ来てまだ何ヶ月にもならないのに、その間に受けとったその町の人の誰かの死んだという便りの多いことだった。吉田の母は月に一度か二度そこへ行って来るたびに必ずそんな話を持って帰った。そしてそれはたいてい肺病で死ん
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