愉快な人生にプロジットしよう」
その青年にはだいぶ酔いが発して来ていた。そのプロジットに応じなかった相手のコップへ荒々しく自分のコップを打ちつけて、彼は新しいコップを一気に飲み乾した。
彼らがそんな話をしていたとき、扉をあけて二人の西洋人がは入《い》って来た。彼らはは入《い》って来ると同時にウエイトレスの方へ色っぽい眼つきを送りながら青年達の横のテーブルへ坐った。彼らの眼は一度でも青年達の方を見るのでもなければ、お互いに見交わすというのでもなく、絶えず笑顔を作って女の方へ向いていた。
「ポーリンさんにシマノフさん、いらっしゃい」
ウエイトレスの顔は彼らを迎える大仰な表情でにわかに生き生きし出した。そしてきゃっきゃっと笑いながら何か喋《しゃべ》り合っていたが、彼女の使う言葉はある自由さを持った西洋人の日本語で、それを彼女が喋るとき青年達を給仕していたときとはまるでちがった変な魅力が生じた。
「僕は一度こんな小説を読んだことがある」
聴き手であった方の青年が、新しい客の持って来た空気から、話をまたもとへ戻した。
「それは、ある日本人が欧羅巴《ヨーロッパ》へ旅行に出かけるんです。英国
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