してさきの蜜蜂を生かしてはゐる。物足りなく思ふもう一つは主人公の氣持が純眞ではあるが、その力み方に少し誇張したところが感じられることである。それはこの作品を汚すものではない。却つてある美しさを與へてはゐるが、この作品を深めるものではないと思ふ。
然しこの二つのこと、積極的な不滿ではない。何となく物足りなく思ふ。その原因をそこに求めたばかりである。
「さゝやかな事件」以外にこの人を知らなかつた私はこの作品によつて世評を欺かない作者のいい素質を見たと思つてゐる。
中谷がやることになつてゐたこの批評を、中谷が小説をかいたため書けなかつたといふので、編輯の淺沼から此方へ廻された。やりなれないことでもあり、同人の清水が京都から上京して來たり、氣を散らして、たうとう締切に迫られ充分なものが書けなかつた。作家諸氏や編輯者にお詫びをしなければならない。
最後に、新潮が新人號を出して同人雜誌の作家に書かせたことは時宜を得たいゝ企てゞあると思ふ。
それは文壇にとつても同人雜誌作家にとつてもよき刺戟となつたに違ひない。若しまた新人號がヂヤナリズムとして成功してゐたならば、それは新潮社にとつても同人雜誌作家にとつても賀すべきことであつた。更によき次回の新人號のためにその成功であつたことを願ふ。
[#地から1字上げ](大正十五年十一月)
底本:「梶井基次郎全集 第一卷」筑摩書房
1999(平成11)年11月10日初版第1刷発行
初出:「青空」
1926(大正15)年11月号
入力:土屋隆
校正:高柳典子
2005年5月5日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
梶井 基次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング