第3水準1−87−62]子さんは、お父さまにつかえているつもりだといって、平生《へいぜい》からさびしそうにしていたが、(私が)妾《めかけ》になったのもうけだされたのも、奥さまからなので、嫌《いや》だけれど納得したのに――
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といっている。
廿三日附朝刊には、論説も「※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子事件について」とあって、その概略をつまんでみると、
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※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子の事件はあくまで慨嘆すべきものか、あるいはかえって謳歌《おうか》すべきものか、吾人《ごじん》はこれを報道した責任として、ここにいささか批評を試みたい。(略)
彼女の精神生活は甚だ同情すべきものだが、技巧と粉飾が臭気の高い歌で訴えるように事実苦しみぬいていたかどうか。(略)この行動が、はたして自動的か他動的か、これもまた批判してその価値をさだめる有力な材料でなくてはならない――
――※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子事件の真相と※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子の思想とによってわかるるものと思う。更に細論の機会をまたんとす。
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といっている。
廿五日ごろになると、帝大法科の教授連が批判回避の申合せをし、白蓮問題は、暫《しばら》く何もいうまいということになったが、牧野、穂積《ほづみ》両博士が興味をもっているとあり、投書の「鉄箒《てつそう》」欄が段々やかましくなっている。
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白村《はくそん》の近代の恋愛観のエッセイを読み続けてゆくと、家名、利害をはさまず、人格と人格の結合、魂と魂との接触というが、白蓮、伊藤、宮崎|各々《おのおの》辿《たど》るべきをたどった。(鉄箒)
「法廷に立て」伝右衛門が白蓮女史に送った手紙誰が書いたのか、甚だもって伝右衛門らしくない。彼がとる態度は、有夫|姦《かん》の告訴、白蓮は愛人をともなって法廷に立て。(鉄箒)
「栄華の反映」自分を崇拝している年下の男の方が、自分の弱点を知る石炭みたいな男より我儘が出来るのが当然だが愛がなくてもの同棲十年は、相当|情誼《じょうぎ》を与えたはずだ。(鉄箒)
天才は不遇な裡《うち》に味もあれば同情もあるのだ――虚名を求めて彼女の轍《てつ》を踏むときバクレンとなるなかれ。(鉄箒)
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