ものぎ》りが自慢だつたが、そんな時の父を、私はあんまり好かない。
世界大戰の時の、ドイツの女性はいふまでもない。今日の日本でも、女性の任務がどんなに重いかを覺悟しなければならない時、私はお糸さんを妙に思ひ出すのだ。あの女《ひと》は不幸《ふしあはせ》な一生で死んでしまつたが、私はあの女《ひと》が志望を遂《と》げてゐたらば、立派な働きをしてゐたであらうと思つて、勿體《もつたい》ないことをしたと思つてゐる。
大本營を廣島にまで進められたこの戰爭と一緒に忘れないのは、戰爭中に年が明けた廿八年の一月には、文藝倶樂部や太陽や、少年世界も同時に發行され、帝國文學の創刊もあつた。私が、一葉女史の「たけくらべ」をないしよで買ひもとめるのに、たけくらべ、竹くらべ、背丈《たけ》くらべ、などと、ありつたけの當字《あてじ》を書いて、探しにやつたのもそれからぢきのことであつた。
[#地から2字上げ](「オール讀物」昭和十二年十月一日)
底本:「桃」中央公論社
1939(昭和14)年2月10日発行
初出:「オール讀物」
1937(昭和12)年10月1日
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年1月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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