さな、ありや美濃だらう。
さうか、そこいな、大きな鯨が出て、大砲の彈丸を三發もうけたが、とうとう船に四人《よつたり》乘せたまま呑んでしまつたとよ。
はなしだらう。
さうでないのだ、信實《まつたく》だとよ、新聞にあつたのだらう。
船と人が四人《よにん》? そんなに呑めるものかな。
呑めるんだらう、何しろ巨《でか》い鯨《もの》に違ひない。
でも美濃は山國だらう。
さうかな、ちつとをかしいな。
山國にしておけよ、俺の家の息《やつ》が、なんでも船乘りになつてゐるさうだ。
さうか、知らなかつた――ろくなことはないなあ。
好いことはきかせねいや。
伊豆通ひの※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《ふね》が、※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]笛《きてき》を低く呻吟《うな》らせて通り過ぎると、その餘波にゆられて、ゆらゆらしながら、
金華山は美濃だ、美濃はたしかに山國だ。
さうならお咄《はな》しだ。と言捨てて共に去つた。
明治四十年ぐらゐの京橋區佃島の住吉の渡しでの乘合衆である。
[#地から2字上げ](「女子文壇」増刊附録)
底本:「桃」中央公論社
1939(昭和14)年2月10日発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年1月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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