ってくると、飛び出して、主人の時などは土に手をつく人品の好い門番が、以前は一番上席の家老だったというふうで、小使いも下の女中もみんなお婆さんかお爺さん。たまたま二、三人、上《かみ》女中でないものに若い女がいたが、年寄りもおんなしことで、ただ年が若いというだけ、新時代に対してなんにも知らない人たちばかりだった。
鍾愛《しょうあい》の、美しい孫姫さんが、御方《おかた》(姫の住居―離れたお部屋)に乳母たちにかしずかれていた。侯爵夫人になられた細川博子さんがそのお姫《ひい》さまであったが、あたしが奉公してから間もなく、ウエスト夫人という西洋人のところへ、英語を学ばれに通うことになったとき、そのお乳母さんが附いてゆくのが、およそあたしが、生涯に羨ましいと、人のことを羨んだ、たった一つのことで、お今さん、あなたは傍にいらっしゃるのときいたら、はい、すぐお傍にいますが、なんにも覚えてませんと言った。何とやらん無念のおもいが、胸にグンと来るのを、どうしようもなかったのは、志望してそのお伴のまたお伴に、ついてゆけることなど、およそ出来るわけのものでもなかったからだ。次の部屋にいようとも、あたしの耳は発
前へ
次へ
全39ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング