ものは、両手をひろげてふせぐ、鬼は、あっちこっちと、両側を狙《ねら》って、長い列が右往左往すると、虚を狙って成功する――その時分、人|浚《さら》いが多くあって、あたしの従兄《いとこ》も夕方さらわれていったのを、父が木刀をもって駈《か》けていって、神田弁慶橋《かんだべんけいばし》で取りかえしたという話もあるので、そんな遊びもしたのであろう。夕方になると子供を外に出しておくのを危険とした。そんな事で、外出もやかましくいったのかも知れないが――
釜鬼は、塀や壁を後にして、土に半輪《はんわ》を描き、鬼が輪の中に番をしていて、みんな下駄を片っぽずつ奥の方へ並べておく。それをチンチンモガモガをしながら、輪の中へ取りにゆくのである。大挙して突進すると鬼が誰をつかまえようかと狼狽《あわて》る、それが附目《つけめ》なのである。下駄が一ツ二ツ残ると、それからが駈引《かけひ》きで面白く興じるのだ。
――瓢箪ぼっくりこ――つながってしゃがんで、両方に体を揺《ゆす》って歩みを進めて、あとの後《あと》の千次郎と、唱《うた》いながらよぶと、一番|後《うしろ》の子が、ヘエイと返事をして出てくる。問答がすむと、その子がこんどは先頭になるのだ。
雛《ひな》一丁おくれは、ずらりと子供を並べておいて、売手が一人、買手が一人、節をつけて唄い問答する――
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ひな一丁おくれ、
どの雛目つけた。
この雛目つけた、いくらにまけた。
三両にまけた、なんで飯《まんま》くわす?
赤のまんまくわしょ。
魚《さかな》をやるか?
鯛魚《たいとと》くわしょ。
小骨がたあつ、
噛《か》んでくわしょ……
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ここは何処《どこ》の細道じゃも唄《うた》うのだ。二人の鬼が手を組んで門をつくり袖を垂《た》れている。袖の後《うしろ》に一人の子が隠されている。訪ねてくるものが、まず唄って、鬼がこたえる。
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ここは何処の細道じゃ/\
天神様《てんじんさま》の細道じゃ/\
ちっと通してくださんせ/\
御用のないもな通されぬ/\
天神様へ願かけに/\
通りゃんせ、通りゃんせ。行きはよいよい、帰りはこわい――
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袖があがる、訪ねるものは通ってゆく。こんどは隠された子をつれてくぐりぬけるのに鬼どもはいやというほどなぐろうとする。そうさせまいと走りぬけるのだ。
底本:「旧聞日本橋」岩波文庫、岩波書店
1983(昭和58)年8月16日第1刷発行
2000(平成12)年8月17日第6刷発行
底本の親本:「旧聞日本橋」岡倉書房
1935(昭和10)年刊行
入力:門田裕志
校正:小林繁雄
2003年4月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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