どうかの話
 息子クサル

◎ラスト 戦地からの手紙――
 ボーゼストの、手と私の殺した男の、手とを再考スル

[#「註」略]

×・七
 遂に七日の旅立ちです。
 子供を背負ッて帯を除して、兵隊の横を小走りに行く女の人を見る。
 駅頭の混乱
 ××着(×××荷物駅)×町を行進する。
 京都の駅前でバンザイを叫んだ人と××の街頭でバンザイを叫ぶ人と顔色が違う。
 叫ぶ人の悲劇 叫ばれる奴の悲劇。
 喜劇かもしれない。
 前進座の宮川氏来る。

[#「註」略]

×・八
 朝から雨となる。土砂降りの雨。
 第二突堤より運送船××丸にて出帆す。
 乗船前三十分。
 前進座の連中に逢う。

[#「註」略]

 「日直上ト兵」
 ワーイ
 「食券持ってイモン袋取りに来い」

 「オーイ、田中、田中、日直上ト兵ッ」
 (居ない)
○紹介
 船尾で寝ていた。
 「書簡は各小隊でまとめて船長の所へ持って来い、わかったか、わかったら返事せんか」
 ワーイ

 「おい酔うて甲板へ出ると危いぞ」
 「うん」
 「海へ落ちるな、カマスゴに喰われるぞ」

○ゴムのパチンコで蝿を殺してる兵。

 ×月十一日――
 三井物産の大谷氏の話。
 ××乗船ニ遅れた兵。事務長ガ無電ヲ神戸港ノ司令部ニ打ツ
 兵来リテ汽車ニテ○○へ急グ
 航行中ノ運送船ヨリ縄梯子ヲ降シ、モーターボートヨリ兵乗リウツル。
 始末書ヲ書ク
 上海ニテ司令官乗船、事務長ガ頼ム
 司令官、兵ヲ事務長ノ室ヘ呼ブ
 (夜)
 始末書ヲ破ル、兵感激ス。
 司令官、兵ニ破ッタ始末書ヲ渡シ、海ヘ捨テロト云フ
 兵室ヲ出ル、消灯ラッパ聞コエル
 兵戻ッテ来ル
 司令官「遅レタ罪ダ」ト兵ヲ叱ル。
 地ノ果テヲ行ク、参照スベシ

[#「註」略]

×月十五日
 「儂の拳骨は鉄砲の弾丸だ 武士の情けだ」
 モンモンの兵、鉢巻をするあり。
 一二三で鉢巻をして手を叩く遊戯。

[#「註」略]]

 船酔いの男、寝ている。
 「うーん、おい」
 「どうした、確ッかりしろ」
 「儂の背のうを取ッてくれ、中に紙に包ンで梅干がある筈だ」
 「ウメボシ」
 「あるか?」
 「あった」
 「それ、儂のヘソへ張ッて呉れ」
 「船に弱い人は梅干をおヘソに張ッとくと、いくらゆれても平気だッて」
 斯ンな意味の場面アレバヨシ

 太沽沖十浬の処に到着したのが十三日夕方
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