シナリオを一本書き上げた時の事です。各人、随分得手勝手な、無責任極まる与太を飛ばしましたが、結果に於ては出来上ったシナリオが想像以上に明るく面白く、ギャグなぞも案外垢抜けのした奴がありました。
 この正月の休暇に八人会で旅をしますが、旅の間に一本書こうかとの話があります。八人の酔ッ払いがどんな与太を飛ばすだろうかと思うと今から旅が楽しみです。相当なナンセンス映画のシナリオが出来る筈です。
 第四は、僕の一番苦しむもの。
 苦しきことは余りにも多過ぎます。サイレントではタイトルを書く時の苦しみ、トーキーとなって台詞の書けぬ苦しさ。ロケーションと書けばその場所の選択に悩み、セットと書けばそのデザインに困る。
 ダイタイ活動写真をこさえる事は、決してナマ易しい事ではありません。
 第五は、その他雑感。
 昭和十年の目出度き春を迎えるに際しましてキネマ旬報誌に折入って懇願致したい事があります。
 それは、僕に二度と再び斯くの如き駄文と恥をかかせない事を約束して下さい。
 山中貞雄には、旬報さんよ、ダマッて活動写真だけを撮らせて置いて下さい。[#地から1字上げ]以上



底本:「山中貞雄作品集 全一巻」実業之日本社
   1998(平成10)年10月28日初版発行
入力:野村裕介
校正:伊藤時也
2000年2月18日公開
2003年10月17日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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