て行くこの春の形見かな
夏の部
大刀根の泡や流れて雲の峰
池に落ちて水雷の咽びかな
夕立や石吹き落す六合目
五月雨や蓑笠集ふ青砥殿
五月雨の合羽すれあふ大手かな
蓑を着て河内通ひや夏の雨
清水ある家の施薬や健胃散
雨雲の摩耶を離れぬ卯月かな
大沼や蘆を離るゝ五月雲
短夜や蓬の上の二十日月
短夜の麓に余吾の海白し
午睡さめて尻に夕日の暑さかな
涼しさや月に経よむ一の尼
更へ/\て我が世は古りし衣かな
新茶煮てこの緑陰の石を掃ふ
矢車に朝風強き幟かな
灌仏やはや黒々と痩せ給ふ
大団扇祭の稚児をあふぎけり
滝殿に人ある様や灯一つ
折り/\は滝も浴み来て夏書かな
蓬生の垣に蚊遣す女かな
古庵や草に捨てたる竹婦人
百の井に掘りて水なし雨を乞ふ
一杓は我も飲みつゝ打つ水よ
波立てゝ持ち来る鉢や冷奴
時鳥左近の陣の弓の数
月がさす厠の窓や時鳥
貰ひ来る茶碗の中の金魚かな
老い鳥や己が抜羽を顧る
古御所の蓬にまじり牡丹かな
荒れ寺や塔を残して麦畑
萍の泥にたゞよふ旱かな
一八の東海道も戸塚かな
下闇を出づれば鶏の八つ下り
玉葛の花ともいはず刈り干しぬ
秋の部
聴衆は稲妻あびて辻講義
朝露や矢文を拾ふ草の中
暁や鐘つき居れば初嵐
我声の吹き戻さるゝ野分かな
税苛し莨畑の秋の風
三日月や仏恋しき草枕
三日月に女ばかりの端居かな
月の船琵琶抱く人のあらはなり
横雲やいざよふ月の芝の海
古妻の昔を語る月夜かな
空家に下駄で上るや秋の雨
初潮を汲む青楼の釣瓶かな
山の井や我顔うつる秋の水
提灯で見るや夜寒の九品仏
山越や馬も夜寒の胴ぶるひ
堂島や二百十日の辻の人
我が描きし絵に泣く人や秋の暮
行秋の石より硬し十団子
下京や留守の戸叩く秋の暮
七夕を寝てしまひけり小傾城
押し立てゝはや散る笹の色紙哉
呼びつれて星迎へ女や小磯まで
屋根越しに僅かに見ゆる花火かな
小袴の股立とつて相撲かな
小角力の水打つて居る門辺かな
魂棚の前に飯喰ふ子供かな
草分けて犬の墓にも詣でけり
墓拝む後ろに高き芒かな
草市の立つ夜となりて風多し
通夜の窓ことり/\と添水かな
提げて行く燈籠濡れけり傘の下
酔顔の況や廻燈籠かな
踊るべく人集まりぬ月の辻
月ももり雨も漏りしを蚊帳の果
つゞくりの遂に破れて秋の蚊帳
巻きかへて又打ち出だす砧かな
摂待に女具したる法師かな
鳩笛も吹きならひけり湯治人
吹くう
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