の翌朝に於ての悔恨が、いかに苦苦しく腹立たしいものであるかを忘れて。げにかくの如きは、あの幸福な[#「幸福な」に傍点◎]飲んだくれの生活ではない[#「ない」に傍点◎]。それこそは我等「詩人」の不幸な[#「不幸な」に傍点◎]生活である。ああ泥醉と悔恨と、悔恨と泥醉と。いかに惱ましき人生の雨景を蹌踉することよ。
夜汽車の窓で
夜汽車の中で、電燈は暗く、沈鬱した空氣の中で、人人は深い眠りに落ちてゐる。一人起きて窓をひらけば、夜風はつめたく肌にふれ、闇夜の暗黒な野原を飛ぶ、しきりに飛ぶ火蟲をみる。ああこの眞つ暗な恐ろしい景色を貫通する! 深夜の轟轟といふ響の中で、いづこへ、いづこへ、私の夜汽車は行かうとするのか。
荒寥たる地方での會話
「くづれた廢墟の廊柱と、そして一望の禿山の外、ここには何も見るべきものがない。この荒寥たる地方の景趣には耐へがたい。」「さらば早くここを立ち去らう。この寒空は健康に良ろしくない。」「まて! 沒風流の男よ。君はこの情趣を解さないか、この廢墟を吹きわたる蕭條たる風の音を。舊き景物はすべて頽れ、新しき市街は未だ興されない。いつさいの信仰は廢つて、瘴煙
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