があり衞生に害があると云ふものを金圓を以て扱ひをする。其の扱をする言葉に、又々粉鑛採聚器と云ふ機械を据付けて毒は必ず流さないから是で承知しろ、其代り諸君にも幾らか既往の損害もあることであるから是は不充分ながら取つて呉れろと言ふから、地方の人民は皆な知事の申すことであるから之を信じて、欺かれて幾らかの金を取つた。そうして以來毒は流れて來ぬと云ふことであるから、私共の知事は有難い事であると言つて知事に禮状を發した位である。其の世話役をした縣會議員抔もありますけれども、是は未だ能く鑛毒の事を知らぬのであつた。職のある者が斯う云ふ事をやると云ふは惡るいけれども、是は知らぬでやつたことであるから敢て彼此言ふではございませぬが、知事たる者が内務省の内命を受けるとか何かなければソンな亂暴なことをやるだけの度胸を持つて居るものではございませぬから、即ち議會に於て鑛毒を流さぬと云ふことを二度まで答辯して、それで三度目の答辯が出來ないから、地方の知事を頼んで仲裁したと云ふやうな曖昧した答辯が出た位でございまするが、其時には農科大學の試驗の成績を以て第二囘の質問を致しましたから、鑛毒が無いと云ふことは言へなくなつた、鑛毒はあるに相違ないけれども未だ鑛業を停止するだけの程度に至らぬから、是の場合粉鑛採聚器を据付けて是から先き毒を少しも流さぬやうにすると云ふ答辯を致した。それで續いて知事を以て地方を瞞着し、瞞着するのみならず欺いて居る。
明治廿六年に、どうも粉鑛採聚器と云ふものは效力の無さそうなものであるからして、質問を致さうと思つて居ると、議會が解散になつた。廿七年に質問しようと思ふと、又解散になつた。其中に日清戰爭になりましたから、此の場合は質問どころか意を枉げて之を控へて國の一致團結を圖り、外國に對して兄弟牆にせめぐことをば見せぬやうにしたのが、當時の精神であります。それで廿七八年は質問はしないのでございます。丁度伊藤内閣の時には質問しないで、今の内閣に至つて質問するやうな場合になつて來た。然るに廿七年の洪水の毒が來たから、そこで鑛業者は驚いて、廿七年十一月から郡吏を派遣して地方の人民を騙かし始めた。其瞞着の仕方と云ふものは、郡吏と云ふものが色々考えた末、郡長の内命だとか或は郡長の代理だとか言ふては出張し、人民を呼び上げて、一段歩に付き二圓若くは一圓の金を呉れるから永世苦情を言はぬと云ふ書付に判を捺せ。――一體此の欺き方が色々で、嚇すのもあるし賺すのもある。或は虚言を吐き、足尾銅山と云ふものは最早鑛脈が絶へて一年位しか持たないのであるから、今ま一圓でも二圓でも取れば取り徳だ、五十錢でも取り徳だ、是れは貴樣にだけ内證で話すのだがと云ふ樣な事を言ふ。此話が漏れて傳はるから、五十錢でも三十錢でも取り徳と云ふ競爭で、彼の永世苦情を言はぬと云ふ書付を、五圓以下一圓から二十五錢甚しきは七錢五錢、唯だ五錢取つて永世苦情を言はぬと云ふ判を捺した。群馬縣邑樂郡海老瀬村などは一村皆な然うである、一番多いのが二十五錢である。
斯樣な譯で、色々な手段を以て欺いて、金を遣つて書付を取つたから是で苦情は無いものである、是は鑛毒地の半分以上を占めて居る抔と云ふことを、今日申して居る連中がある。彼の惡漢無頼の輩ならばいざ知らず、郡吏などが斯樣なことをやつたと云ふことに就きましては許されないことですから、日清戰爭平和の後二十九年に質問したのでございます、此處だけ質問したのでございます。是にも亦た農商務大臣は答辯しない。近頃聞く所によると、群馬縣新田郡の郡吏中某と云ふものは灌漑用水か何かで、近頃鑛業停止の請願書が大分出るさうだから古河市兵衞に掛合へば必ず金が取れる、金を取るのは此處だと言ふて騷ぎ[#「騷ぎ」は底本では「騷き」]立て、郡吏の先立で、古河市兵衞から一萬圓内外の金を取つて被害人民を胡麻化そうとしたが、然う馬鹿にされる人民許りでもございませぬから、昨今反對の大騷があると云ふ話である。兎に角郡吏と云ふ者の遣り方が此の通りだ。内務大臣と云ふものは是に就て、何故己の本領を固めて農商務大臣に御掛合は無いでございますか。甚しきは此の廿七年の十一月のことでございます。十一月は未だ日清戰爭中、海城邊の戰爭の時分で、兵隊は寒い所で凍へて死ぬ、兵糧衣服は不十分と云ふことを訴へて居る折柄、此の鑛毒被害地からも壯丁が繰出して戰場へ出て居る、此の壯丁の居ない時を附け込んで老若男女を脅かし騙して印を取つたと云ふことは、如何に金が欲しくてすると云ふても、苟も役人と云ふ肩書を持つて居る奴が、古河市兵衞の奴隸になるとは怪しからぬことで、此の人間が今日に至て未だ郡吏だとか何だとか云ふことをして居ると云ふに至ては、日本政府無し――政府があるならば斯樣な奴は嚴重なる御處分があつて宜しかろうと思ふ。それで一圓
前へ
次へ
全11ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 正造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング