諸君は斯樣な者を何と呼ぶか、御訴へ申す、私には適當の名が見付かりませぬ。
斯の如く鑛業人一人を法律の外に置て我儘跋扈をさせると云ふことは、治外法權を内地に拵へて其の執行權を與へて置くと同じでございます。外務大臣司法大臣と云ふものは自分で警戒を加へなければなりますまい、内地雜居が行はれます時、何を以て外人に我國の法律を遵奉させることが出來ますか。此外此の銅山の鑛業人が他の一般鑛業人の發達を妨げると云ふことを明言しなければならぬ。斯樣な奴があつては他の鑛業者が迷惑をする。何故かと言へば世問で言ふ、一體鑛業と云ふものは良くないもので、鑛毒は植物衞生に害があるのみならず人心を腐らせる、又た國益などゝは以ての外で、彼處は惡人の製造場だ、斯樣なものが栃木群馬に居るから、銅山を此外に起されては堪らない。――左程害のひどく無い所までも足尾銅山の爲に他の鑛業者の名譽を害し鑛業を妨げると云ふことが出來るのみならず、今既に其處に到つて居る。同じ銅山でも伊豫の別子銅山の如き、海を距つこと僅に八里。栃木縣の地理を調べないではいけぬのは其處です。足尾銅山は地圖で見ても日本の眞中である。眞中だから是が平坦の關東へ流れ出す。關東で一番有名で稠密な桐生足利といふ織物産地に此毒が流れて來る、どちらへ出ても五十里百里と云ふ道を經なければ海に落ちない。剩へ平坦の處へ出て良田を潰す。海の端に在る銅山と山間の溪流を經て海へ落ちるものと一緒になるもので無いから、初め此に採掘事業を起す時に能く調査しなければならぬ。一體此處に採掘事業を起させて製鑛所に非常な械械を据付けて亂暴することを許したのが、土臺間違つて居る。
斯の如く迚も言葉を以て盡されませぬが、それだけの害があるに、何故今日まで被害地方の人民は騷ぎ出さないか、何故に聲を上げて騷がないか、騷ぎが餘りに遲いではないか、又今日となつても聲が低いではないかと云ふ疑がなければならないのでございます。其に就きましては何處迄も被害地人民の有樣を申上げて大に之を辯解して置かなければならない。當路の人にも能く之を聽かして置かなければならない。被害地の巡廻に參つても、古河の番頭たる郡長の案内で、害の少ない上ツつらを見て歸つて來ると云ふ樣なやり方では迷惑するから、能く實驗の仕方も教へて置かうと思ひます。
渡良瀬川の下流にある被害地今日の境遇では、聲を出す能はざるに至つて居
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