事でありましたけれど、今日山崩を防ぐ計畫をすれば、まだ是丈は幾らか防げるかと思ふのでごさいます。
斯樣な譯で、此鑛毒と洪水の事を少々申上げなければなりませぬ。洪水の事は各府縣に於ても災害を受けて居る事でありますから喋々申しませぬ。唯だ群馬栃木埼玉茨城の洪水は、毒が這入つて居ると云ふだけが違つて居る。越後岡山其他各地洪水の御話も隨分慘憺たる有樣でありますが、此方のには毒があるのでございますから、諸君の御賢察を願はなければなりませぬ。それで此堤防に生へる所の竹が枯れてしまう。是れが(演壇上に竹を示しつゝ)堤防の竹でございます。是は當年の竹が死んでしまつたのである。鑛毒の爲に根が枯れる、此根が皆な長くならなければならぬのに、皆な枯れて是だけしか根がありませぬ。――此の堤防のことにつき當節土木局の役入抔の話によりますると、一體堤防に竹のあるのはよくない、綺麗に刈拂はぬと、洪水の時に蟻の穴鼠の穴から堤防の崩れるのが分らぬ、殊に手を掛けないで鑛毒の爲に枯れて呉れゝば便利だなどゝ云ふ辯護説もあるそうでございます。從來竹を以て護岸とし或は草を以て護岸とし柳を以て護岸とする徳川時代の堤防は、皆な地勢に則り川の流を十年も二十年も實驗して築いた堤防である。今の堤防學者の樣に外國で學んで來て、川の地理などには構はないと云ふのとは違つて居る。竹で防げる所は竹で、草で防げる所は草ですると云ふのが徳川時代の堤防築造方でございます。古い堤防は竹が必要な場所がある。其竹を枯してしまへば善くなると云ふ筈は無い。是が爲に堤防が切れて澤山の害を受けたと云ふことは、是は御訴へ申して宜からうと思ふ。それで堤防の竹が斯の如く枯れるばかりでなく、洪水のある地方から御出になつた諸君は能く御承知でございますが、堤防には幅が極まつて居る、高さも極つて居る。然るに此渡良瀬川は明治政府が出來て、明治廿二年以來川床が非常に高くなつたことは是はちやんと分かつて居る。或は六尺高くなつて居るかと思はれる、堤防を六尺高くしなければ水が溢れると云ふことも極つて居る。然るに此の山から押し出して來る所の水が、乾燥して居る川へ一時にドツとやつて參りますから、敢て大水でなくとも水は一時に來る。同じ水でも一時に參りますから多くなる。川の下流の方では未だ洪水と云ふことを知らぬ内に、上手の方の堤防が切れる。此の水の水脚も非常に早くなつた。此に付て
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