き、我ハ父が病ひの床に侍して藥をあたゝめ肩をなづる頃成しかば、唯一わたりによみ捨てゝ深く心を用ゐもえやらず、しばしありけるほどに父か[#「か」に「(が)」の注記]病ひあつく成りて、つぎて空しく成けるほどにいつしか歌の撰ハ忘にたり、取置ども濟して今日で三七日といふ日、たよりにつけて師のもとより紙つ[#「つ」に「(づ)」の注記]ゝみ一つおくられぬ、紙の面をみれハ[#「ハ」に「(ば)」の注記]何がし大人撰む甲とあり、有松絞りの地ハ薄かりしが[#「が」に「(か)」の注記]どもおさな心にハいか斗うれしかりけん、母も見給へ、妹もなどよろこぶに、父が詩文の友成ける何がしの伯父來あひて、あはれ今一月はやからばいかに病みたる人喜バん、惜しくもよるの錦よといはれて、実にこれのみにもあらざりけり、これより後もし幸ありて、いさゝか面だゝしき事ありぬべき折、たれにかは喜バるべき、かなしやと思へば再び筆とる事ものうく成りぬ
底本:「樋口一葉全集 第三卷(下)」筑摩書房
1978(昭和53)年11月10日初版第1刷
1988(昭和63)年4月30日初版第4刷
※底本の変体仮名を、同じ読みの片仮名「ハ」「バ」「ミ」で入力しました。
入力:三州生桑
校正:土屋隆
2005年5月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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