居て、何うして又此おそくに出かけて來た、車もなし、女中も連れずか、やれ/\ま早く中へ這入れ、さあ這入れ、何うも不意に驚かされたやうでまご/\するわな、格子は閉めずとも宜い、私《わ》しが閉める、兎も角も奧が好い、ずつとお月樣のさす方へ、さ、蒲團へ乘れ、蒲團へ、何うも疊が汚ないので大屋に言つては置いたが職人の都合があると言ふてな、遠慮も何も入らない着物がたまらぬから夫れを敷ひて呉れ、やれ/\何うして此遲くに出て來たお宅《うち》では皆お變りもなしかと例《いつ》に替らずもてはやさるれば、針の席《むしろ》にのる樣にて奧さま扱かひ情なくじつと涕を呑込んで、はい誰れも時候の障りも御座りませぬ、私は申譯のない御無沙汰して居りましたが貴君もお母樣《つかさん》も御機嫌よくいらつしやりますかと問へば、いや最う私は嚏《くさみ》一つせぬ位、お袋は時たま例の血の道と言ふ奴を始めるがの、夫れも蒲團かぶつて半日も居ればけろ/\[#「けろ/\」に傍点]とする病だから子細はなしさと元氣よく呵々《から/\》と笑ふに、亥之《ゐの》さんが見えませぬが今晩は何處へか參りましたか、彼の子も替らず勉強で御座んすかと問へば、母親はほた
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