じく不運に泣くほどならば原田の妻で大泣ォに泣け、なあ關さうでは無いか、合點がいつたら何事も胸に納めて知らぬ顏に今夜は歸つて、今まで通りつゝしんで世を送つて呉れ、お前が口に出さんとても親も察しる弟《おとゝ》も察しる、涙は各自《てんで》に分て泣かうぞと因果を含めてこれも目を拭ふに、阿關はわつと泣いて夫れでは離縁をといふたも我まゝで御座りました、成程太郎に別れて顏も見られぬ樣にならば此世に居たとて甲斐もないものを、唯目の前の苦をのがれたとて何うなる物で御座んせう、ほんに私さへ死んだ氣にならば三方四方波風たゝず、兎もあれ彼の子も兩親の手で育てられまするに、つまらぬ事を思ひ寄まして、貴君にまで嫌やな事をお聞かせ申しました、今宵限り關はなくなつて魂一つが彼の子の身を守るのと思ひますれば良人のつらく當る位百年も辛棒出來さうな事、よく御言葉も合點が行きました、もう此樣な事は御聞かせ申しませぬほどに心配をして下さりますなとて拭ふあとから又涙、母親は聲たてゝ何といふ此娘は不仕合と又一しきり大泣きの雨、くもらぬ月も折から淋しくて、うしろの土手の自然生《しぜんばえ》を弟の亥之が折て來て、瓶にさしたる薄の穗の招
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