それとて一紙何ほどにかあたひせん 日々にかうべをなやましてよみ出る歌どもにさへわれながらよろしとうなづくもあらねばまして人の見るめはいかならん 賣文の徒とか人のいやしがる物からこれをこがねにかへらるゝならばわれは親の爲妹の爲はた我が衣食のため更にいとはじ 歌やと成てみせ先にたにざくども書ならべてんあはれかふ人なきをいかにせばや
春の雪のおもひがけずいと深々とつもりたるに何となく物めづらしく火をけに火さし物あぶりくひなどする折人のもとより文あり つねにうちとけぬ人のいとなれ/\敷おもふことをかきおこせてよにある人々の評などさま/″\にあり をかしくてことに我を世にすね物の二葉の春をすてゝ秋の一葉とうそぶき給ふ事わけは侍るべし 柳のいとの結ぼれとけぬ片こひや發心のもとなどゝいへる事多かり 折からをかしうて
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ひたすらに厭ひははてじ名取川
なき名も戀のうちにぞ有ける
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おのづからいひとく折は侍らん 波のぬれ衣などいはんもふるければとてかへしやりつ これをいかさまにつたへてことやうのものにやいひなすべき たれも人のこゝろ得しらぬ物なれば
いざ連歌よまん下の句出し給へと人々いふ さらばいかにもつけ給へ上の句からにこそとて「つらきうきよのおもしろき哉)とかきてなげ侍ればあはれにくき出しざまやと師の君わらふ 田中のみの子上の句かきて出す「月花もおもひすてゝは中々に) よみ得たりとて人々響動みをつくりぬ 折から伊藤の與助ぬし坐にあり 句作にかしらをなやまし居るいとをかしくてみの子ぬしふところ紙に書きつくるを見れば「いさをゝたてよ大君の爲とありし こは近に征清の軍にしたがはん人なればなめり こゝとかしこといとあはひの隔たれば大聲にて物いはんもうし 其よしかきてよとみの子ぬしいふ 我れかきつけてなげやれば師の君取りてたかくうとふ
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この一句田中のみの子より參らす いくさの陣にはせむかふて大功をたて給はん君の連歌のよみかけにうしろを見せ給はゞ長く卑怯の名や得給はん たゞすみやかに/\とてなん
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されどもえよみやらでかしらをかゝへぬ
物へもてゆくに筆のつか長くていと侘し少し切りてなどいふ人あれど大方釣合して作りたる物なれば切りてはつかのいと輕く手ごゝろかはるとさる人仰せられぬ さる時は切
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