集物が続出するのは何故かと云う疑問が局外者間に起るであろう、それは
四分の一位に減じても、マダ七千八千、二万三万、五万十万の読者が継続して居るのであるから、印刷部数を制限して余計のものを造らず、規定を改めて残本の返送を少からしめ、又諸経費を緊縮して消極方針を執るなどで、苦しいながらも細々と続刊し得られるからである
次に新円本の出版が続出する理由は、従来の単行本は大概三千部位しか売れず、景気がよくて増刷しても五六千部止りに過ぎず、一万以上売れたものは、百中に一二もない位であったが、円本が流行出して其記録を破り、何でも全集と名づけて一円本式にすれば、直ぐに何万という大数に達するので、猫も杓子も全集物に着手したのであるが、今も尚普通の単行本として続刊するのよりは、全集と名づけて出版すれば、容易く一万以上の客を得られるばかりでなく、普通の単行本として出版したのでは、一般の不景気で購買力が減じて居る上、円本に比較して定価が高いという紙屑買のコケ共が多いので、従前通りの三千部もムツカシイのである、そこで自衛上全集物を出さねば立ち行けない者が多いからである
遅れ馳せに出た破廉恥漢の醜様全集
全集物の全盛期にも、此方は流行カブレの仲間には入らないぞ、といったような態度で、従来の雑誌五六種を発行するのみで居た某区内の某社までが、近頃全集物の一円本を二種出すに至った、それは雑誌のヤシ的誇張広告を諸新聞紙上に出しても、五割以上の返本があるのは、其内容の空疎に呆れて顧客が漸減するものとは気付かず、是も全く流行円本の影響だとばかり見て、遅れ馳せにクダラヌ全集物を出す事になったのであろうが、出版界の破廉恥漢、汝に良心ありやと、曾て同業者会で罵られた事もあるノロマ[#「ノロマ」の「ノ」と「マ」に圏点]ならぬ狸爺、例の「果然満天下の熱狂的歓迎」とか「予約者殺到期日切迫」などと諸新聞紙上に、誇大文句を並べるであろうが、イクラまで愚物を釣り寄せ得るか、皮算用の十分の一にも達しないことを予言する
昨今の諸新聞を見ると、彼は果して例の誇大文句を並べた大広告を出して居る、其中で最も小癪に障る一二の文句「報国の赤誠より出たる献身的大努力の結晶」だとサー、笑わせるではないか、破廉恥漢の赤誠とは赤い舌を出す「赤舌」の間違いだろう「面白い全集だ、子孫に伝えたい不朽の名著だ」とは「旧版丸抜きのクダラヌ低級の全集だ、漉返しに送りたい不用の紙屑だ」とすればよいとこ「素晴しい盛況、印刷製本の能力及ばざる時は期日前に〆切るやも知れず」とホザイてるには呆れる、早く〆切ったが両方のタメだろう
一年半前に於ける著者の予言的中記
今より一年五ヶ月前、即ち昭和二年五月、大阪にて発行せし『奇抜と滑稽』第一号四頁に、左の如く記述して、円本流行を痛撃した事があった、専断的の批判と予言、果して的中したか否かを見て貰いたい(順序も字句も原文のままで改削更になし)
「ナント皆さん、ヘンな事がハヤリ出したではありませんか、出版界の資本主義化実現だと云って居る人もありますが、ヤリクリ算段で一儲けしようとする類人猿も多いのですから、今後の成行が見ものであるに違いないと思います
此全集の全集編纂は竹亭子と協議で聊か考慮したものです、批評的の題名は現実観、其当否に異論もありましょうが、予断的の題名が果して的中するか否かは、ココ数月の内に決する事、徒らの嘲罵と見ないで来る時をお待ち下さい(骨)
全集の全集
世界大皮相全集 現代人真似全集
現代大衆文盲全集 日本愚筆全集
誤字誤訳全集 駄法螺宣伝全集
見本立派全集 内容空疎全集
旧版丸抜全集 粗製濫造全集
盲目千人全集 衆愚雷同全集
新聞社大儲全集 安かろう悪かろう全集
予約者後悔全集 不読ツンドク全集
古本洪水全集 縁日安売全集
予想裏切全集 中途ヘコタレ全集
紙屋踏倒全集 発行元夜逃全集
右の前半、一の『世界大皮相全集』より十の『粗製濫造全集』に至るまでの批判的題名は、其後の世評と其実物の公正査定によって、悉く異論なしとする所であろう
次に中間の『盲目千人全集』と『衆愚雷同全集』は、大衆の文盲と其雷同性にて予約者と成り破約者と成った其後の事実が証明して居るから、これも首肯すべき題名であろう、其三の『新聞社大儲全集』は、一頁千円二千円三千円の高額を貪る広告料の収入増大は云う迄もあるまい、殊に昨年九月十月頃には前例なき二頁続きの大広告もあり、一頁半頁の広告で毎日泥仕合をするなど、新聞社としては創業以来未曾有の増収であった、其四の『安かろう悪かろう全集』は昔から動かぬ格言で、今更解説する迄もなく、今更例示する迄もあるまい
次に後半の予言的八題に就ては、条を逐うて其予言的中の大自慢をする
『予約者後悔全集』 コンナ面白くないもの、コンナわけの判
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