た語と語とが結合して複合語を作りまたは連語を作る時、その語の音がもとのままでなく、多少規則的に転化することがある。これを複合語または連語における音転化の法則という。
 以上のようなきまりはすべて連音上の法則というべきであるが、これは、言語の違うに随って異なると共に、同じ言語にあっても、時代または時期の違うに従って変遷するものである。国語の音韻の変遷を考えるには、単に一々の音の時代的変化ばかりでなく、かような諸法則の変遷をも考えなければならない。
 以下、国語音韻の変遷の大要を述べるに当って、時代を三期にわける。奈良朝以前を第一期とし、平安朝から室町時代までを第二期とし、江戸時代から現代までを第三期とする。かように三期にわけたのは、各期の下限をなす三つの時代、すなわち奈良朝と室町末期と現代とが、他の時代との関係なくしてそれだけで比較的明らかにその音韻組織を知ることが出来る時代であって、これを互いに比較すれば、その間に生じた音韻変化の大綱を推知し得られ、しかもこれに続く時代との間にはかなり音韻状態の相違が認められるので、ここで時期を劃する[#「劃」は底本のまま。「画」の旧字体。128−12]のを便宜と考えたからである。もとよりこれは便宜から出たものである。今後、各時代各時期の音韻状態がもっと明確に、もっと詳細に知られる時が来たならば、もっと多くの時代に分けることが出来るであろう。

     二 第一期の音韻

 第一期は奈良朝を下限とする各時代である。当時は文字としては漢字のみが用いられたので、当時の音韻の状態を知るべき根本資料としては、漢字をもって日本語の音を写したものだけである。そうしてかような資料は、西紀三世紀の頃の『魏書《ぎしょ》』をはじめとして、支那歴代の史書や、日本の上代の金石文《きんせきぶん》などの中にもあるけれども、それらはいずれも分量が少なく或る一時代の音韻全般にわたってこれを知ることは出来ない。奈良朝にいたって、はじめてかような資料が比較的豊富に得られるのであるから、第一期の音韻を研究しようとするには、どうしても先ず奈良朝のものについてその時代の音韻組織を明らかにし、これを基礎として、それ以前の時代に溯るのほかないのである。
 一 奈良朝の音韻組織
 奈良朝時代の文献の中に、国語の音を漢字(万葉仮名)で写したものを見るに、同じ語はいつも同じ文字で書
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