一定数の音単位以外は言語の音としては用いることなく、外国語を取入れる場合でも、自国語にないものは自国語にあるものに換えてしまうのが常である(英語のstickをステッキとしたなど)。
かように或る言語を形づくる音単位は、それぞれ一をもって他に代え難い独自の用い場所を有する一定数のものに限られ、しかも、これらは互いにしっかりと組合って一つの組織体または体系をなし、それ以外のものを排除しているのである。
以上のような音単位は、一つ一つにはもはや意味を伴わない、純然たる音としての単位であるが、実は音単位としてはまだ究極に達したものでなく、その多くは更に小さな単位から成立つものである。例えばカはkとaとに、サはsとaとに、ツはtとsとuとに分解せられるのであって、これらの小さな単位が一定の順に並んで、それが一つに結合して出来たものである、このことは、これらの音を耳に聞いた上からも、また、これらの音を発する時の発音器官の運動の上からも認められることであって、これらの音の性質を明らかにするには是非知らなければならないことであるが、しかし、かようなことを明らかに意識しているのは専門学者だけであって、その言語を用いている一般の人々は、カ・サ・ツなどをおのおの一つのものと考え、それが更に小さな単位から成立つことは考えていないのである。例えば、ナはnとaから成立ち、そのnは「アンナ」(anna)といふ語のンと同じ音であるにもかかわらず、人々は、ナとンとは全く別の音と考えている。それ故、<k><a><s>などは音の単位としては究極的な最も基本的なものであるけれども少くとも我が国語においては、これらの単位から成立ったア・タ・マなどの類を言語の外形を形づくる基本的の音単位と認めてよいと思う。(我が国において、古くからかような音単位を意識していたことは、歌の形がかような単位の一定数から成立つ句を基本としていること、ならびに、仮名が、その一つ一つを写すようになっているによっても知られる。)西洋の言語学では<k><a><s>のような最小の音単位を基本的なものと認めてこれを音または音韻と名づけ、カ・サのようなそれから成立つ音単位を音節と名づけるが、右の理由によって、我が国では、むしろ音節を基本的なものとしてこれを音または音韻と名づけ、これを組立てる小なる音単位は単音と名づけてこれと区別すればよかろ
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