、24−9]」という字もあって、同じ音でありながら、しかも形が皆違っております。字としては違った字であります。こういうものは幾らもあります。これは、我々が今使っている言語でありますから、同じ語であり同じ音であるということが、はっきり判るのでありますが、しかし昔の人の書いたものについて昔の音を研究してみようという場合には現代において我々がそれを同じ音で読むということは、余り大した根拠にはならない。昔の人がどんな風に発音しておったかということが判らなければ駄目であります。しかし昔の人がどんな発音をしておったかということは、我々は直接に知ることは出来ないのであります。その場合にこの「あ」、「※[#「※」は変体仮名、25−2]」、「か」、「※[#「※」は変体仮名、25−2]」、「※[#「※」は変体仮名、25−2]」などの字をたよりにして、それが同じ音であったか、違った音であったかということを考えるよりd方がない。字をたよりにする場合には、これらの違った文字は、まず別のものとして取り扱わなければならぬ。それを同じ音に発音したか違った音に発音したかということは、我々は予《あらかじ》め決めることは出来ないのであります。
 それで、現代においては平仮名において変体仮名というものがあって、同じ音をあらわすのに色々違った形の文字があります。片仮名には今では変体仮名はありませぬが、それでは片仮名にはそんなものは全然ないかというと決してそうではないので、今はありませぬが古い時代には幾らかあって、「キ」に対して「※[#「※」は変体仮名、25−9]」という形があって、「キ」と同じ所に用いてあります。「ミ」に対して、「※[#「※」は変体仮名、25−10]」という形「ア」の字に間違えられやすいものがある。「ワ」に対して「禾」という形がある。「ノ」に対して「※[#「※」は変体仮名、25−11]」という形がある。「ホ」に対して「※[#「※」は変体仮名、25−11]」、こんな形がよく用いられております。それであるから片仮名でもやはり昔の言語の音を知ろうという場合には、字の違いがすなわち音の違いと考えることは出来ないのであって、これとこれとが同じ音であるということは予めきめる訳には行かないのであります。
 その他、今日の普通の書き方によれば「キヤウ」と書いても「キヨウ」と書いても「ケウ」と書いても「ケフ」
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