願ひごとなくて手古奈の秋さみし   かな女
足まげて見て涙こらえぬ秋のくれ   同
[#ここで字下げ終わり]

 このかな女氏[#「かな女氏」に傍点]の句には、子のないものの或時の淋しさ。ものかたい母君にそだてられた家庭の婦人らしさ辛棒づよさが出ている。

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雛ゆづる子なくて淋しかざりおる   操女[#「操女」に傍点]
雁ないてその夜に似たり松の星   翠女[#「翠女」に傍点]
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 前の句は石女《うまずめ》の淋しさを、後の句は亡き子の一周忌をいたむ母の涙の句である。

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さうめんや孫にあたりて舅不興   久女
貧しき群におちし心や百合に恥づ   同
貧しき家をめぐる野茨の月尊と   同
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 田舎の旧家の複雑した家庭。境遇の矛盾。ノラともなりえず、ホ句に慰藉を求めては、貧しき家をめぐらす野茨の月の純真さに、すべてを忘れ、花衣の色彩の美しさにもこころひかるる、感じ易き久女。子ぼんのうの彼女は、

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風邪の子や眉にのび来しひたい髪   久女
[#ここで字下げ終わり]

 我子への愛着のふかさをうたっている。
 境遇、個性、感情、心持の句についてはもっと詳しく記したいのであるが余り長くなるからすべてを省略する事とした。
[#地から1字上げ](昭和二年十月稿)
[#地から1字上げ](「ホトトギス」昭和三年二月)



底本:「杉田久女随筆集」講談社文芸文庫、講談社
   2003(平成15)年6月10日第1刷発行
底本の親本:「杉田久女全集 第二巻」立風書房
   1989(平成元)年8月発行
初出:「ホトトギス」
   1928(昭和3)年2月
入力:杉田弘晃
校正:小林繁雄
2004年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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