な描写が全部であるかの如くも思えるが、大景を叙した句も少くない。而し一般的には女流は叙景叙事には男子の如き技量なく、矢はり彼女らの本領は女らしい材料、捉え所、において光っている。
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遥かなる藪浪うつて驟雨かな あふひ
高き樹の落葉たはむれて露の原 同
群雀稲にくづれて山青し 同
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之等の句は、もはや男女の区別なき写生の技で光っている。
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春昼や出船のへりのうす埃 みさ子
大池のまどかなる端や菖蒲の芽 同
冬凪や小舟をつれてかゝり舟 せん女
りんだうや入船見おる小笹原 久女
塀の外へ山茶花ちりぬ冬の町 かな女
蓮さくや暁かけて月の蚊帳 より江
身かはせば色かわる鯉や秋の水 汀女
落葉山一つもえゐて秋社 みどり
大比叡に雷遠のきて行々子 春梢女
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出舟のへりのうす埃。小舟をつれてかかりおる親舟。塀外へちる山茶花のわずかな色彩。蓮池と、月の蚊帳と。男性の句に比してやはり女性らしいみつけどころを捉えている。美しくなだらかである。殊に大池の端の菖蒲の芽は、木版の風景絵の如きうるおいを見せている。古の女流中では天明の星布尼、大景叙景の客観句に富み佳句も少くない。
(12)[#「(12)」は縦中横] 線の太い句[#「線の太い句」に傍点]
習作としての純客観写生から一歩、主観客観合一の境地へ進むと、もはや単なる写生の為めの写生句ではない、線の太い句となるのである。
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春雷や夜半灯りて父母の声 みさ子
茎漬や明日柏木に月舟忌 みどり
奥の間に句会しづかや松の内 清女
夜寒児や月に泣きつゝ長尿 静廼
時雨るゝや灯またるゝ能舞台 あふひ
父逝くや明星霜の松に尚ほ 久女
山駕にさししねむけや葛の花 せん女
玉芙蓉しぼみつくして後の月 より江
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三 境遇個性をよめる句
須磨の山荘に久しい宿痾を養っているせん女氏[#「せん女氏」に傍点]には病の句が沢山ある。
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病んでさへおればひまなり菊の晴れ せん女
鈴虫や疾は疾我生きん 同
極月や何やらゆめ見病みどほし 同
病みながら松の内なるわが調度 同
[#ここで字
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