もいゝかね、さあランク君、行つてみよう――(入口の處で)おや、どうしたんだ?
ノラ なあに? あなた。
ヘルマー ランク君の話で、大變な衣裳稽古を見る積りだつたが?
ランク (入口の所で)私もさう思つてゐた。聞き違ひとみえる。
ノラ いけませんよ、明日の晩までは私の晴衣裳は誰にも見せないの。
ヘルマー どうしたんだ、お前は大變疲れてるやうにみえる、稽古をし過ぎたのだらう。
ノラ いゝえ、まだ少しも稽古なんかしやしません。
ヘルマー けれども、お前やらなくちやいけないんだらう――
ノラ えゝ是非やらなくちやならないんですよ。けれどもね、あなた來て教へて下さらなきや、やれないんですもの、私みんな忘れちやつた。
ヘルマー あゝ、そりやまた直に思ひ出すさ。
ノラ ですから教へて下さいな、ねえ、よくつて、それぢや約束して下さい――本當に私、氣にかゝつてならないの。あんな大勢の人の前で――今夜は貴方、すつかり私のために身體をあけておいて下さいな。これつぱかりでも仕事をしてはいけなくつてよ。さ、約束して下さいな、よくつてあなた?
ヘルマー 約束するよ、今夜はすつかりお前の奴隷になるよ。可哀さうに、氣
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