無くなつたのですから(とび上りながら)ねえ、クリスチナさん、考へると、本當に大したことなのですよ。心配ごとがなくて自由の身になつて。自由です。すつかり自由なんです。これでもう子供と一緒にきやつきやつと騷ぎまはつてゐても差支へなし、トル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルトの好きなやうに家の中も綺麗に飾つたり、さうしてる中に春が來て、あの廣い青い空が見えて來ます。その頃にはちよつとした休みも取れるでせうし、も一度海も見られるでせう。ねえ、生きてゐられて幸福だといふことは何といふ素晴らしいことでせう。
[#ここから3字下げ]
(廊下口のベルが鳴る)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
リンデン (立ち上りながら)ベルが鳴ります。私はお暇した方がいゝでせう。
ノラ いゝえ、まあいゝんですよ、來たのはきつとトル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルトの客ですから。
エレン (入口の所で)奧さま、お客樣が見えまして旦那さまにお目にかゝりたいとおつしやいます。
ノラ 誰方? 支配人さんはとおつしやつたらう。
エレン はい、支配人さまと――でもあちらにはラン
前へ
次へ
全147ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島村 抱月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング