閉ぢ籠つて死ぬ覺悟でゐるのですよ。
ヘルマー 可哀さうに。無論長くは持つまいと思つたが、しかしかう急にとはなア。
ノラ ですけど、成るやうにどうせ成るのですから、誰だつて默つて行く方がいいのですよ。さうは思ひませんか? あなた。
ヘルマー (あちこちと歩きながら)あの男とは特に親しくしてゐたものだから、ゐなくなつたと聞いても本當とは思へない。あの男の身についてゐた色んな苦しみだの淋しさだのが、雲の懸つたやうに私達の幸福な日光を包んでゐたのだが、さうさな、詰りはかうなるのが一番よかつたらう――少くとも當人のためには(突つ立つて)それからおそらく、私達にだつてその方がいゝかも知れない。ねえノラ。さあ、これで愈々私達二人は全く差し向ひになつたといふものだ(兩手に女を抱き)ねえ、お前、私は何だかまだお前をしつかりと私の物にすることが出來なかつたやうな氣がする。あのねえ、ノラ、私は折々さう思ふが、何かお前の身の上に非常な危險が降りかゝつてきて、そして私がそれを救ふために身體も生命も、その他、ありとあらゆる物をなげうつてみたらどうだらう。
ノラ (身をすり拔け確乎とした調子で)さあ、あなた、その手
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