るので。
リンデン とんでもないこと、こちらへそんなご迷惑をかけてすむものですか。さようなら、あなた色々とご親切にありがたうございました。
ノラ さようなら、又すぐお目に掛りませう。無論今晩またいらつしやるでせうね? それから、あなたもね、先生。え? 達者でゐたらでしよ? 達者にきまつてるぢやありませんか。澤山着て、暖かにさへしていらつしやれば大丈夫ですよ。(皆々話しながら廊下へ出て行く。外では階段の上で子供達の聲が聞える)來た來た。(ノラ走つて行つて扉を開ける)お這入り、お這入り(屈んで子供に接吻する)おゝ、いゝ子/\。御覽なさいよ、クリスチナさん。可愛いゝでせう?
ランク 吹きさらしでお喋りをしてゐちやいけませんよ。
ヘルマー さあ、リンデンの奧さん、母親でなくちや此の寒さにあゝしてゐられるものぢやありません。
[#ここから3字下げ]
(ランク、ヘルマー、リンデン夫人、皆々階段を下りて行く。アンナが子供を連れて室に入る。ノラも一緒に入つて來て、エレンが扉をしめる)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
ノラ お前たち、まあ元氣だわねえ。頬つぺたの赤いこと――林檎かバラの花のやうですよ。(イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール「あゝとても面白かつた/\」と叫ぶ)とても面白かつたつて? それはよかつたね。(イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール「ボブとエンミーを橇にのせてやつたの」ボブ「僕のつたの」)お前がエンミーとボブを橇に乘せてやつて――二人一緒に? まあねえ、おや/\、イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールはすつかり大人だわねえ(イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール「いゝかい、橇だよ」子供達、橇のまね、下手へ行き、又上手へ)アンナ、その子を少し私にお貸し、いゝ子の人形さん(末の子を保姆から取つて抱いたまゝ踊る、ボブ「ママ、僕と踊らうよ、ママ/\/\」)はい/\、お母さん、今にボブとも踊るよ。(イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール「ママ、僕雪投げしたの」)え! 雪投げをしましたつて? おゝ、私もお仲間に入りたかつたね。(アンナ、子供達の服を此處までの間に脱がせてやる)いゝえ、みんな、さうしてお置きよ、私が脱がせてやります。私にさせておくれ(ボブ「本當に面白かつたよ、ママ」)面白いことねえ。お前、寒さうぢやないか、子供部屋へお出で、ストーヴの上にコーヒーの熱いのがあるわよ。(保姆は左手の室に入る。ノラ、子供の着物を脱がせて、そこら中に投げ出す。イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール「ボブちやんさつきの犬こはかつたね」ボブ「でもあの犬食いつきやしなかつたよ」)さう! 大きな犬が家まで追つかけて來たつて? けれどもエンミーに食ひつかなかつたつて? あゝ、犬はね、エンミーのやうないゝ子に食ひつきませんて。いけませんよ、イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールはその包を覗いちや。何だらうねえ、見たかなくつて? (イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールさはつて「何かしら」[#「何かしら」は底本では「何かいら」])あゝ、用心おし、食ひつくよ。(ボブ「遊ばうよ/\」他の子も一緒に)え! お母さんも一緒に遊ぶのかい? 何をして遊ばうね(イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール「かくれんぼしよう」)隱れんぼ? はいはい隱れんぼをしませう。ボブが先に隱れるのですよ。私が? ぢやあ私が先に隱れますよ。
[#ここから3字下げ]
(ノラ子供と一緒になつて、その室と右手隣室で笑ひ聲叫び聲の大騷ぎをする。ノラ終にテーブルの下に隱れる。子供達が駈け込んで來て探すけれど見つからぬ。そのうちノラのくす/\笑ふ聲を聞きつけ、テーブルの方へ駈けて來て覆ひの布をもち上げ母を見出す。一しきり大騷ぎ。ノラは子供をこはがらすやうな風で這つて出る。また一しきり大騷ぎ。その間、廊下への扉を叩く聞えてゐたが、誰も氣がつかぬ樣子。やがて扉が半ば開いて、クログスタットが出て來る。しばらく待つてゐると遊び事がまた始まる。)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
クログスタット 奧さん、ご免なさい。
ノラ (押しつけたやうな叫聲で振り向き、半ばとび上る)お! 何かご用ですか?
クログスタット 失禮致しました。外の戸が開いてゐましてね、誰か閉めるのを忘れたのでせう――
ノラ (立ち上りながら)宅は今留守ですよ。
クログスタット 承知してをります。
ノラ ぢやどういふご用でいらつしやつたのです?
クログスタット あなたに少しお話し申すことがありましてね。
ノラ 私に? (子供の方を向いて柔かに)アンナの方へ行つてお出で。ママちよつとご用があるから。あの人が歸つたらまた遊
前へ 次へ
全37ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島村 抱月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング