ヘルマー えゝと、いつも金を撒き散らしてる者を何とかいつたつけな。
ノラ 知つてますよ、無駄使家といふんでせう。けれどもね、あなた。どうかさうして下さいよ。さうすると何が一番先に買ひたいか、私ゆつくりと考へますわ、その方が利口でせう?
ヘルマー (微笑しながら)全くさうだ。たゞお前が自分の物を買ふ時までその金を持つていられゝばいゝがさ。みんな家の用だの下らない買物だのに無くしてしまつて、そして私がせびられるんだからな。
ノラ まあ、あなた。
ヘルマー 嘘だといふのかい? (女を片手に抱いて)こんな可愛らしい雲雀が隨分と物凄く金を使ふものだ。お前ほどの小鳥を一羽飼ふためにどれ位金がかゝるか人にいつたつて本當にはしないからねえ。
ノラ およしなさいよ、そんなこと。私、殘せるだけは殘しますわ。
ヘルマー (笑ひながら)よかつたね――殘せるだけ殘しますは――所が一向殘せません。
ノラ (得意さうな體で鼻唄、にこ/\しながら)ふむ、私のやうな雲雀や栗鼠がどの位お金を使ふか、今にわかるでせうよ。
ヘルマー お前は不思議な人間だ。丁度お前のお父つあんのやうだ。いつも金ばかり欲しがつてゐて、それで金が手に入ると、もう指の間からでもこぼすやうに無くしてしまふ。何に使ふんだかわかりやしない。が、まあいゝさ、ま、お前はいつまでも、お前でゐて貰ひたいな、かうやつて可愛らしい小鳥のやうに囀つてね。おや何だかお前は變に怪しいぜ、今日は。
ノラ 私?
ヘルマー あゝ、さうだ。こつちを向いて御覽。
ノラ (夫の方を見ながら)はい。
ヘルマー (指でつゝく眞似をしながら)此奴、今日はいけないといふ物を食べたな。
ノラ 嘘ですよ、ひどい人。
ヘルマー 菓子屋をちよつぴり覗きやしなかつたか?
ノラ 嘘ですよ、あなた、本當に。
ヘルマー ゼリーを一なめやりはしなかつたか?
ノラ 嘘、誰がそんなことをするものですか。
ヘルマー パン菓子を一つ二つ摘みやあしなかつたか。
ノラ 嘘ですつてばねえ。
ヘルマー よし/\、冗談だよ。
ノラ (右の上手のテーブルの方へ行き品を包む)あなたがいけないといふことを何で私がするものですか。
ヘルマー さうだらう/\。お前は誓つたんだものな(女の方へ行きながら)ぢやあ、まあお前が企んでることはクリスマスの祕密として取つとくさ。今にクリスマス・ツリーにあかりをつければみんなわ
前へ
次へ
全74ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島村 抱月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング