「実はと申すと、あなたのお母さん始め、私また民子の両親とも、あなたと民子がそれほど深い間《なか》であったとは知らなかったもんですから」
僕はここで一言いいだす。
「民さんと私と深い間とおっしゃっても、民さんと私とはどうもしやしません」
「いイえ、あなたと民子がどうしたと申すではないのです。もとからあなたと民子は非常な仲好しでしたから、それが判らなかったんです。それに民子はあの通りの内気な児でしたから、あなたの事は一言も口に出さない。それはまるきり知らなかったとは申されません。それですからお詫びを申す様な訣……」
 僕は皆さんにそんなにお詫びを云われる訣はないという。民子のお父さんはお詫びを言わしてくれという。
「そりゃ政夫さんのいうのは御もっともです、私共が勝手なことをして、勝手なことをお前さんに言うというものですが、政夫さん聞いて下さい、理窟の上のことではないです。男親の口からこんなことをいうも如何《いかが》ですが、民子は命に替えられない思いを捨てて両親の希望に従ったのです。親のいいつけで背《そむ》かれないと思うても、道理で感情を抑えるは無理な処もありましょう。民子の死は全くそれ
前へ 次へ
全73ページ中67ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 左千夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング