って叱っては、あんまり可哀相ですわ」
 お増が共泣きをして言訣をいうたので、もとより民子は憎くない母だから、俄に顔色を直して、
「なるほどお増がそういえば、私も少し勘違いをしていました。よくお増そういうてくれた。私はもうすっかり心持がなおった。民や、だまっておくれ、もう泣いてくれるな。民やも可哀相であった。なに政夫は学校へ行ったんじゃないか、暮には帰ってくるよ。なアお増、お前は今日は仕事を休んで、うまい物でも拵《こしら》えてくれ」
 その日は三人がいく度もよりあって、いろいろな物を拵えては茶ごとをやり、一日面白く話をした。民子はこの日はいつになく高笑いをし元気よく遊んだ。何と云っても母の方は直ぐ話が解るけれど、嫂が間《ま》がな隙《すき》がな種々《いろいろ》なことを言うので、とうとう僕の帰らない内に民子を市川へ帰したとの話であった。お増は長い話を終るや否やすぐ家へ帰った。
 なるほどそうであったか、姉は勿論母までがそういう心になったでは、か弱い望も絶えたも同様。心細さの遣瀬《やるせ》がなく、泣くより外に詮《せん》がなかったのだろう。そんなに母に叱られたか……一晩中泣きとおした……なるほど
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