人ごとに同じように顛末《てんまつ》を問われる。妻は人のたずねに答えないのも苦しく、答えるのはなおさら苦しい。もちろん問う人も義理で問うのであるから深くは問いもせぬけれど、妻はたまらなくなって、
「今夜わたしはあなたとふたりきりでこの子の番をしたい」
といいだす。自分はそうもいくまいがとにかくここへは置けない。奥へ床を移さねばならぬといって、奥の床の前へ席を替えさした。枕上《まくらがみ》に経机《きょうづくえ》を据え、線香を立てた。奈々子は死に顔美しく真に眠ってるようである。線香を立てて死人扱いをするのがかあいそうでならないけれど、線香を立てないのも無情のように思われて、線香は立てた。それでも燈明《とうみょう》を上げたらという親戚の助言は聞かなかった。まだこの世の人でないとはどうしても思われないから、燈明を上げるだけは今夜の十二時過ぎからにしてといった。
親戚の妻女《さいじょ》だれかれも通夜《つや》に来てくれた。平生《へいぜい》愛想笑いをする癖が、悔やみ言葉の間に出るのをしいてかみ殺すのが苦しそうであった。近所の者のこの際の無駄話は実にいやであった。寄ってくれた人たちは当然のこととして
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