出して追い込みに入れている。雪子《ゆきこ》もお児《こ》もいかにもおもしろそうに笑いながら雛を見ている。
奈々子もそれを見に降りてきたのだ。
井戸ばたの流し場に手水《ちょうず》をすました自分も、鶏に興《きょう》がる子どもたちの声に引かされて、覚えず彼らの後ろに立った。先に父を見つけたお児は、
「おんちゃんにおんぼしんだ、おんちゃんにおんぼしんだ」
と叫んで父の膝に取りついた。奈々子もあとから、
「わたえもおんも、わたえもおんも」
と同じく父に取りつくのであった。自分はいつものごとくに、おんぼという姉とおんもという妹とをいっしょに背負うて、しばらく彼らを笑わせた。梅子が餌を持ち出してきて鶏にやるので再び四人の子どもは追い込みの前に立った。お児が、
「おんちゃんおやとり、おんちゃんおやとり」
というから、お児ちゃん、おやとりがどうしたかと聞くと、お児ちゃんはおやとりっち言葉をこのごろ覚えたからそういうのだと梅子が答える。奈々子は大きい下駄に疲れたらしく、
「お児ちゃんのかんこ、お児ちゃんのかんこ」
といい出した。お児の下駄を借りたいというのである。父は幼き姉をすかしてその下駄を貸
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