国民品性の特色を備えた、在来の此茶の湯の遊技を閑却して居るは如何なる訳であろうか、余りに複雑で余りに理想が高過ぎるにも依るであろうけれど、今日上流社会の最も通弊とする所は、才智の欠乏にあらず学問の欠乏にあらず、人にも家にも品位というものが乏しく、金の力を以て何人にも買い得らるる最も浅薄に最も下品なる娯楽に満足しつつあるにあるのであろう、
今は種々な問題に対して、口の先筆の先の研究は盛に行われつつあるが、実行如何と顧ると殆ど空である、今日の上流社会に茶の湯の真趣味を教ゆるが如きは、彼等の腐敗を防除するには最もよき方便であろうと思うに、例の実行そっちのけの研究者は更にお気がつかぬらしい。
彼の徳川時代の初期に於て、戦乱漸く跡を絶ち、武人一斉に太平に酔えるの時に当り、彼等が割合に内部の腐敗を伝えなかったのは、思うに将軍家を始めとして大名小名は勿論苟も相当の身分あるもの挙げて、茶事に遊ぶの風を奨励されたのが、大なる原因をなしたに相違ない、勿論それに伴う弊害もあったろうけれど、所謂侍なるものが品位を平時に保つを得た、有力な方便たりしは疑を要せぬ、
今の社会問題攻究者等が、外国人に誇るべき日本の美
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