水害雑録
伊藤左千夫
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)奴《やつ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一朝|禍《わざわい》を蹈む
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「奚+隹」、第3水準1−93−66、82−1]
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一
臆病者というのは、勇気の無い奴《やつ》に限るものと思っておったのは誤りであった。人間は無事をこいねがうの念の強ければ、その強いだけそれだけ臆病になるものである。人間は誰とて無事をこいねがうの念の無いものは無い筈であるが、身に多くの係累者を持った者、殊に手足まといの幼少者などある身には、更に痛切に無事を願うの念が強いのである。
一朝|禍《わざわい》を蹈むの場合にあたって、係累の多い者ほど、惨害はその惨の甚しいものがあるからであろう。
天災地変の禍害というも、これが単に財産居住を失うに止まるか、もしくはその身一身を処決して済むものであるならば、その悲惨は必ずしも惨の極《きょく》な
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