き驚異を發見したと叫ぶ。
儀式
村へくると僕は肩の圭角をといて
足を歩くにまかして何の制限も加へず
眼のかがやくままに、血のあたたまるままに
正直に自分を風のなか日のなかに
ときほごし、ときほごし
大きい呼吸とのろい運動とにつれて
この地球への尊敬と愛情をそこら中へ
ゆつたりとしてふりまいて歩く
棕櫚の花
空中から
青い扇をかさね、かさねて
棕櫚は黄金いろの花をひろげるよ
ねぼけてしまつた古い黄金の綱に
かすかな昔の回想を編んで
素朴な、素朴な、今時はやらない
もうろうとしたその回想を
まひるの人人の上に影としてひろげてゐるよ
所有權
村村の靜かな地主達!
僕はこの立派な雜木林と草つ原の
あたらしい二重三重の權利を感情で爭ふ
僕は君達の風と大氣と精神を
木木がしつとりととりかこみ
どんなに地球の生の神神と
あでやかな季節の娘たちによつて
大きく味方され力を得てゐるかが
うらやましくてたまらないから。
松の山
かさなり、うち重なり
松の山、更に松の山ばかり
いくら眺めても松ばかりの
あざやかな酸と、影つた緑青の
すが/\として味氣なき田舍景色よ
颯と朝の明星をかかげて
七月の白鷺の群れを放ち、はなち
ルビー色の火を焚けよ
はるかに障子のみ眞白な小家。
旅行
旅をしよう、爽涼たる青年時代に
水星からでも降つて來た人のやうに
ちらちらする宵の情炎をおびて
怒濤のすぐ傍に坐つたり
古寺の幽繪のほとりを歩いたり
青ざめた博物館を通りぬけて
ただ二人のほかは星と町と村との
清らかな自然色の廣場があるばかりで
千鳥と千鳥がとぶやうに
春と秋との愛情をむすび、羽をそろへ
新らしい快樂の壺が破れるまで
影繪の人物のやうに旅をしよう。
青根への道
馬上に、一人ゆれる椅子をかけ
空中にゆられ、風にゆられ
霧は眞青な落葉松の
矢ばねから矢ばねへはねかへり
幽かな空をわたり、つめたい木陰をつたひ
私は馬の廻るままに山をめぐる
得もいはれぬ靜かな朝のはれゆく愁ひよ
ゆたりゆたりと谿の上をそひ
もも色の花處女袴に眼をはなち
深みゆく山の影多き心を
霧いろに青む外套に蔽ひつつ。
雪と瀧
空氣に色をつけよ
僕は谿の空中をへだてて
雪の山嶽の裂け目から
ぼうぼうと落下する瀧の花火を見つめる
こんなにも雪白な、生きた寫眞を
鮮かな感覺をもつて切斷し
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