るのではないか
この蘆と水とのまんまんたる
片田舍の眺めを思へば
うつうつたる情怨のこもれる
又はしんめりと照り漂ふ夕の色の
青い遊星として寂寥ばかりの
星の時代が地球にもあつたであらう
その清らかな空中の旅よ
風力計
單檣も、双檣も、四本檣も
噴水のやうに氣中に立てよ
若やかな夏の禾本科植物よ
われわれの野に照る感覺は
青くて圓い天の弧のなかに
ぐるり[#「ぐるり」に傍点]の地平線の圓盤上に
あちこちとすくすく立てる
みどりの風力計を發見して
われわれの散歩に恰度よい
場所と風位を空中に自記し
ありあり時を讀得る有難さ。
莢
もめんづる[#「もめんづる」に傍点]や草合歡の
すきとほつた船を見よ
豆の橈手が十二人も乘りこんで
蕚《がく》の船首を空中にたて
大氣の濤に小さい造船所をのこして
六月のあかるい世界へ進水しよう、しようと。
行進曲
蒿雀《あをじ》が鳴いて
水がしたたり
風が艶をぬり、雲が翳りを掃くのは
われわれのさびしい精神を
空中へ、より高みへおくる
あたらしい行進曲でなくて何か
その笛やシンバルを愛さずして
どうして野原を歩き廻れようか。
紋章星座
それなら若い野あざみの發生状態を
空中の双眼鏡で垂直に見下ろさなければならない
葉が互生し、羽形に分裂し
刺状の鋸齒が四面にきれて
いきいきした眞青な紋章の星座が
はつきりと地上に浮彫されてゐるのを見る爲めには。
[#地から1字上げ]――畫家Sの話――
蝶の出帆
蝶は出帆するよ
四月のすつきり高い枯草の突端から
毛蟲となつてよぢのぼり、よぢのぼり
その毛製の裝飾をぬぎすてて
陸界の波止場をけり
あたらしい氣體の世界へと
きれいな、綺麗な蝶と生れかはり
風に祝はれて出帆するよ。
忍冬花を啖ふ
みんなして、たつぷり黄金いろした蔓を
ぼさぼさと引きまはして脣をすりつけ
六月のあかるい眞晝の蜜を吸はうよ
たまらなくはれやかな匂ひが
藪から出てくるわれわれを夢みがちに色づけ
女なぞは子持の白鳥のやうに
まきついた忍冬の花飾りを
むしやむしや啖べる季節になつたね。
南かぜ
この曇り日に、いちめんの晝顏が
色のうすい風の盃をゆすり、ゆすり
あちこちと咲きまはつてゐるところ!
はるかに川邊のかたより、ゆるりかんと
帆は雲にふれて消えもせず、ふくらみもせず
陽氣な、それで
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